風の詩ーー君に届け
たまに苦情を言ってきたり、逆恨みする演奏者もいる。



コンクールのたび、待ち時間に「アイツの後には弾きたくない」と言われているのを何度か耳にしている。


「面と向かって『ローレライ』って言われたのは初めてだった」



ポツリ呟くように言いながら、沈んでいるのはそんなことではないと、口に出して言いたかった。



音も立てずに落ちる点滴、鎖骨に刺さった応急処置のペーシングと幾つも繋がれたモニターの管が、鬱陶しかった。




「緒方は……濡れなかったかな」


窓硝子越しの雨を見ながら呟く。



「郁、来たのか?」




「……半時間ほど話した」




安坂さんが、そうかと言っているように頷く。




「郁さ、ポスターをもらったって嬉しそうだった」




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