風の詩ーー君に届け
静まり返った店内。



詩月に注がれる視線。


詩月は、更に記事を読む。


週刊誌は詩月の病状だけではなく、詩月の母親のことにまで触れている。



母親がヴァイオリニストを目指し、ウィーンで学んでいたこと。



演奏家として、これからという時、重症の腱鞘炎で挫折したこと。



更には、腱鞘炎の痛み、炎症を抑えるために、母親が服用した大量の薬。



それが詩月の心臓奇形の実質的な原因だと、書かれている。




―――こんなの……なんの根拠もない。

バカバカしい。



詩月は口に出し言ってしまいそうになるのを堪え、席を立った。




主治医がペーシング治療を伝えた時。


詩月は自分の隣で、涙を堪えていた母の姿を思い浮かべる。



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