風の詩ーー君に届け
詩月の母親は、普段は明るく気丈な女性だ。

彼女は女手1つで詩月を育ててきたも同然だ。

ウィーンを拠点にヨーロッパで演奏活動をしている、天才ピアニスト周桜宗月で年に数日、日本にいればいいほうだ。

自宅でヴァイオリン教室を開き、生まれつき体の弱い詩月を育ててきた。

詩月が入退院を繰り返すたび、腱鞘炎の痛みを薬で抑え、演奏家を目指していた頃を責めながら。

薬と心臓奇形の因果関係は定かではない。

ーー何故、人の痛みを抉るようなことをする!?

 詩月は苛立ちと怒りを堪え無言で、伝票を掴みレジへ向かう。

「周桜くん!?」

 郁子が立ち上がり、詩月を呼んだが、詩月は振り返えらない。
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