風の詩ーー君に届け
苛立ちも怒りもあるが、口に出して言える筈もない。


相手はプロの演奏家、学生ではない。



詩月は、拳を握りしめ気を鎮める。



お前らなんかに負けない、お前以上の演奏をしてやる。


顔で笑って、心で……、泣いてはいない。


自分自身の実力を磨くしかない。



詩月は彼らを見返してやると闘志を燃やす。


日々学び、日々挑んでいくんだと気持ちを切り替える。



悔しい辛いだけでは終われない。




詩月は「音楽は心」恩師の言葉を思い出す。



「Nフィルとは上手くいってるの?」



郁子は度々、詩月に訊ねてくる。



「まあな」



詩月は何事もないように、さらりと交わす。




郁子はこのポーカーフェイスの下に、どれ程の思いを抱えているのか? を思うと心中、穏やかではない。

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