風の詩ーー君に届け
あんな記事が表に出て、あんな画像がUPされ、マイナスばかりだと思っていたのに……。



詩月は心に架かった幾つもの靄が、晴れていくような感覚を覚えた。



練習が始まると、いつも気難しい顔で指揮棒を振るマエストロが何故か、いつまで経っても怒鳴り声を上げない。



苦虫を噛み潰したように不機嫌に歪んでゆく顔が、なかなか歪まない。



足を踏み鳴らし、指揮台から降りてこない。




鋭い目を向け、「シヅキ!!」と怒鳴る兆しさえない。




オケの奏でる演奏が心地好い。



詩月は今までコンサートの本番でさえ、感じたことのない心地好さを感じ、ヴァイオリンを、伸びやかに歌わせる。




妹尾もコンマスの如月も、他の弦楽器も金管楽器、木管楽器、打楽器までもが、詩月の音色に負けじと演奏する。




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