風の詩ーー君に届け
詩月がピアノ科所属だと聞き、驚く者も多い。


詩月は本来、ピアニスト志望だ。



昨秋、詩月は今は亡き、元師匠リリィや副専攻にしていたヴァイオリンの主任教授の勧めで、ヴァイオリンコンクールに出場した。


本選決勝に弾いた演奏が、Nフィルハーモニー交響楽団がドイツから迎えた客員指揮者に認められ、現在に至っている。



書棚ばかりの部屋、あとは机と椅子だけ、他には何もない。
素っ気ない部屋だ。



だが、窓を開けバルコニーへ出ると景色が一変する。




四季を通して様々な種類の薔薇が咲く庭を 見下ろせる。




目線を庭から離し、真っ直ぐ前方に上げる。



目に映るのは、横浜の街並みと港。



日が落ち、暫く経つと夜景を楽しめる。



これで夜空に満天の星が見えれば、申し分ないんだがと思いながら詩月は空を見上げる。



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