風の詩ーー君に届け
5年前、元ヴァイオリンの師匠リリィと彼女の想い人で当時、聖諒大学で准教授をしていたアランの勧めで、街頭演奏を始めた頃。




詩月は中学2年生だった。



あの頃。

天才ピアニストとして名高い父親と比較され、自信を失っていた詩月は、人前で演奏することが恐くてならなかった。



街頭演奏は回を重ねるごと、自由に弾ける解放感が心地好く、演奏の楽しさを感じられるようになるまで、1年とかからなかった。



緊張と震えで泣きながら演奏していたヴァイオリン。



それが人様に聴かせられる演奏になると、弾く場所によっては曲をリクエストされる。



口コミで聴き手が増えるにつれ、クラシックだけでなく、ジャズ、ロック、ブルース、シャンソン、演歌、ポップスなどあらゆるジャンルの曲へとリクエストの幅も増えてく。



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