風の詩ーー君に届け
詩月は5年間、街頭演奏で培った経験が、即興演奏の技だけでなく、咄嗟の判断力も鍛えたのかとも思う。



なのに郁子は昨秋、「真面目で大人しい性格なのに、思いきったことをする」と言った。



詩月はよく、ポーカーフェイスと言われる。



だが、郁子の前では何故か冷静になれない。



幼なじみの理久に同じことを言われても、苛立ちはしないことが、郁子に言われると苛立ち、素直になれない。



自分自身の内面を見透かされている気がしてならない。



何故かモヤモヤする。




自室に戻り、ヴァイオリンの手入れを始める。



f字孔に白米を数粒入れ、本体を静かに振る。



原始的な方法だが、これが1番ヴァイオリンに溜まった埃取りには効果的だ。



難点なのは、f字孔に入れた白米がなかなか出てこないこと。


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