風の詩ーー君に届け
あの日。

妹尾の叫んだ「ローレライ」に、元から体調が優れなかったとはいえ、詩月は心臓発作を起こした。



理久は詩月を宥めながら、詩月をこれほどまで乱す「ローレライ」を見過ごすことなど、できなかった。



もし、同じ電車に乗り合わせていなかったら詩月はどうなっていただろう。


そう思うと背筋が凍る。




街頭で弾き始めた頃。

詩月がヴァイオリンを手に泣きながら、震えて弾いていたことも知っている。



天才ピアニストとして名高い父、周桜宗月の演奏と弾き方が酷似している。


そう言われ続けた詩月のピアノ。



人前でショパンは弾かないとまで、拒みつづけたショパンが、元師匠リリィの勧めもあり、街頭でヴァイオリン演奏をするきっかけになったことも、理久は知っている。



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