風の詩ーー君に届け
普段はクラッシックの演奏が奏でられる店内に、ロックの調べは、どこか新鮮に感じられる。



カウンターの中でサイホンを立てながら、マスターは耳を澄まし、歌詞を口ずさむ。


マスターは聖諒の大学音楽部卒業生で、オペラ歌手を目指し留学した経験もある。


声が楽器だけあって、いい声をしている。



扉の風鈴が優しく涼やかに鳴る。


トレンチコートに深く帽子をかぶった紳士が、静かにカウンター席に座った。



「ブラック」

一言呟く。


ヴァイオリン演奏のレッドツェッペリンStairway to Heaven 『天国への階段』に耳を傾ける。


「懐かしいな」


紳士はカウンターに肩肘をつき、演奏を聞き入る。



「珍しいでしょう? ヴァイオリンでロックなんて」



マスターが珈琲カップをコトリと置きながら、話しかける。



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