風の詩ーー君に届け
「面白い、実に面白い」



珈琲をグイと飲み干し、大二郎は声高に笑った。


理久が大二郎を見下ろし、睨みつける。


安坂は唖然と呆けたように固まっている。


マスターは「ですかね」と暢気に頷く。


「ローレライとオルフェウス――両極の顔を持つ演奏家、愉快じゃないか」



「おい、いい加減にしろ。

何が愉快だ」



理久はいきなり、大二郎の胸ぐらに掴みかかる。



安坂は理久を背後から、羽交い締めにし懸命に押さえつける。



「落ち着け、理久」



「1758年製、ガタニーニ作のヴァイオリン『シレーナ』と呼ばれている楽器。

詩月の弾くヴァイオリンは、半人半鳥の妖女名を冠しているそうだな」



「それがどうした」


安坂の手を振り切り、理久は再び、大二郎に掴みかかろうとする。


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