風の詩ーー君に届け
「演奏家泣かせのヴァイオリン――。

あのヴァイオリンの音色に取り憑かれ自らの実力を過信したり、弾きこなせず自信喪失したり、演奏家生命を断たれたヴァイオリニストが幾人もいると伝えられる」



理久が嘘だろうという顔で俯く。



「ローレライに似ていないか」


安坂が息を飲む。



「シレーナは四姉妹で、テレースは魅惑の声、ライドネーは美しい声、モルペーは説得力、テルクシオペーは歌声で航海する舟人を惑わす……ギリシャ神話では『セイレーン』と呼ばれている」


「――!?」


「セイレーンは一括りにして『ローレライ』とも呼ばれる」



大二郎は不敵に高笑いする。


「ローレライを封じ込めたのは、オルフェウスしかいない。

詩月に言ってやれ。

『お前はローレライではない』と、はっきりな」




「あんた、何者だよ」



「さあな」



大二郎は穏やかに笑った。
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