風の詩ーー君に届け
「みなとみらいには聴きに行けないから。

ここからなら、あの子達にも聴こえるから」



零れ落ちる涙を拭い、笑顔を向けるマネージャーの思いに目頭が熱くなる。



肩にかけたヴァイオリンケースを下ろし、ヴァイオリンを取り出し、急いで調弦する。



「あなたのヴァイオリン、ガダニーニの『シレーナ』って言うんですってね。

そのヴァイオリンから奏でられる音色に、癒されたわ」



色んな思いを抱えて、守るべき者達を全身全霊で支えながら、頑張ってきた人。

1番辛いのは、この人だ。

本当のことを告げることも許されずに、彼らから有無を言わさず引き離される。


悔しさ、虚しさ、悲しさ、怒りを抑え、涙を堪えて微笑んでいる。



僕は、ありったけの思いを込めて「Jupiter」を弾いた。


彼女のために。
彼女、1人のために。


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