風の詩ーー君に届け
12章/ヴァイオリンロマンス
照り付ける陽射しが容赦ない。

学舎の講義室の涼しさが恋しくなる。


集中講義で午前中いっぱい缶詰にされ、詩月は思い切り背を伸ばす。



正門側には日陰が少ないが、裏門側には日陰が多い。

大木の下に、煉瓦を数段積んだ円形や四角形の段差は、腰を下ろすには丁度いい。



「もう少し左に」


「こっち」


「もう1歩、左」


「こう?」


「そう、いいみたい」



裏門のシンボル竪琴を背に建つ男神像、通称「オルフェウス」の前。



数日前に正門で見たのと同じ光景に出くわし、詩月は立ち尽くす。



「せーの!」



後ろ向きに、勢いをつけて投げた銀貨は、放物線を描いた後、鈍い音を立て台座に転がり煉瓦を敷き詰めた地面に落ちた。



「……残念」


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