風の詩ーー君に届け
詩月は女学生からもらったメモに目を通し、意外と面倒なんだなとメモを指で弾く。



後ろ向きになって……。

エウリュディケのヴァイオリンf字孔に銀貨を入れて……。


オルフェウスの竪琴f字孔に銀貨を入れる。



エウリュディケの下で、エルガー作曲「愛の挨拶」を弾き……。


オルフェウスの下で……



「何見てるの?」


後ろから詩月の肩をポンと軽く叩き、郁子が訊ねる。


びくつき振り向いた詩月は、胸に手を当て呼吸を整える。



「……驚ろかすなよ」


「呼んだんだけど、あなた気づかないんだもの」



「ごめん……」



「ねぇ、何見てるの?」



郁子は詩月の手にしたメモを、興味深げに覗きこむ。



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