風の詩ーー君に届け
NフィルとXceon(エクシオン)側の諸々の騒動で、詩月はメンバーと1度も「Jupiter」の音合わせをしていない。



アンサンブルのぶっつけ本番。

しかもヴァイオリン1基、ホルン、チューバ、トランペット各1基による変形四重奏。



詩月は郁子に話せば「危うくなったら、街頭演奏で鍛えたアドリブで乗りきればいいのよ」と笑って言うだろうと思う。



「ロマンス2番」を弾きながら泣き出した郁子。



ヴァイオリンロマンス、裏門の男神像の前で弾く曲「ロマンス2番」は、簡単に弾ける曲ではない。


詩月は即興に近い、あのタイミングで郁子が完璧に弾けるなど、思ってはいなかった。

でもまさか、あれほど乱れるとは……思っても見なかった。


あんなに脆い面があるとも思わなかった。



郁子の肩を抱き寄せ、腕の中で震えた郁子に言った自分の言葉が詩月は、未だに信じられない。




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