風の詩ーー君に届け
「差し入れです」



詩月が手渡すシュークリームを「どうも」と受け取る。


無愛想なまま、詩月に関係者証を渡すと「さて段取りを」と事務的に言う。



コンサートのタイムスケジュール表を広げ、控え室の椅子に腰を下ろす。



足組をし、机に片肘を付き、詩月を見下ろす横柄な態度。


「ずいぶんだな」と詩月は思いながら、話を聞く。



「後半のラスト1曲前に『Jupiter』を弾く、ここで」


指差された場所を確認し、詩月は「はい」と頷く。



「あとアンコールに、もう1度。

間が開かないが、体は大丈夫か?」



「大丈夫だと思います」



「そうか。
倒れられては面倒だからな。

それと、メンバーには言ってあるが君は思うよう、自由に弾いていい」



「どういう……」


「素人の演奏に合わせて弾く必要はない。

手加減なく本気で弾くといい」





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