風の詩ーー君に届け
心だな



今は故き、元ヴァイオリン師匠リリィの教えの偉大さを詩月は改めて感じた。



インフォメーション前、約束の5分前に、駆けつけた郁子と座席へ着く。



詩月は座席へ着いてみて、改めて良い席を取ってくれたことに感謝する。



郁子が周りを見回し、客層の広さに驚いている。



「何でこんなに年齢層も客層も広いの?」



訊ねた郁子への答えのように、後部座席から会話が聞こえてくる。



「CMのセンターの子がいいのよね、ヴァイオリン演奏が凄いのよ」



「そうそう、周桜詩月」



「あのCMの編曲も彼がしてるんですって」



詩月はキャップを目深に被り直す。



「緒方、静かにな」



詩月は溜め息混じりに呟く。



「勘違いしてる? 大変ね。

舞台に上がらなきゃならないわね」



クスクスと笑いを堪える郁子に、詩月が念を押す。
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