風の詩ーー君に届け
木々のさざめきが静まり、再び蒸し暑さが戻る。


――暑さが見せた幻と空耳か


詩月はフッと溜め息をついたが、ヴァイオリンと竪琴の心地好い二重奏は、詩月の耳に焼きついている。


詩月は高鳴る思いを鎮めたくてカフェ·モルダウで、一息つく。

窓辺の席に座り、鞄から五線譜を取り出す。

今しがた耳に聴こえた二重奏を、忘れないうちに五線譜に書き記しておきたかった。

――この曲を緒方と弾きたい

僅か数分の短い二重奏。


この曲が果たして、ヴァイオリンロマンスの手順全てを満たせば、誰にでも聴こえる曲なのかどうかもわからない。

――聴こえる調べは、各々違うのかもしれない。それでも……


1つ、恋が成熟する。

1つ、音楽の祝福を受け、成功を納める。

ヴァイオリンロマンスに謳われた2つの伝説を、形に残しておきたいと、五線譜に筆を走らせる。


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