風の詩ーー君に届け
「熱心だな、作曲か?」



「いえ、これは……」



安坂が向かいの席に座り、五線譜を覗きこむ。



「オルフェウスとエウリュディケ……。
お前、まさか聴いたのか?」



安坂が口笛混じりに感嘆する。



「あ、安坂さん……恥ずかしいから大きな声を出さないでください。
これが、伝説に纏わる曲かどうか……自信ないんですから」



「……だよな~。普通、信じないよな。
まず、あのf字孔に銀貨が入らないし」



「入れるコツがあるんです。伝授しますよ」



「俺は、その楽譜に興味があるな」



「他言しないでくださいよ。
曲を忘れないうちに書き記してるだけなんですから」



「ああ、……なかなか面白い曲だな。
難易度も半端なさそうだ」



安坂は詩月が筆を進めたところまでを目で追いながら、興味津々だ。


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