風の詩ーー君に届け
「お前さ、いい加減怒れよ」



ため息混じりに言い放つ。



「ちょっかい出してるのは、ヴァイオリン弾いてる奴だよな」




「そう、……第1ヴァイオリンの女性」




「暢気に答えてんじゃねぇよ。悔しくないのか!?」




「音楽の場に不毛な争いを持ち込みたくない」



詩月は平然と顔色1つ変えずに言う。




「あのな~、クソッ」



理久は詩月を見下ろし、髪を忙しくかき回した。




「苛々する」



「苛ついたって何も変わらない」



「オケはチームワークで演奏するもんだろう!! 
仲間に嫌がらせをするような奴のいるチームで、人を感動させる演奏ができるのか!!」




「……」




「お前が1人、どんなに頑張ったってどうにもならない。
『音楽は心』って、その心が歪んでいて良い演奏ができるのか!!」




「……理久」



荒げた理久の声が、乗客で騒がしい車内に響き渡る。

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