風の詩ーー君に届け
何故、納得のいく演奏にならないのか?


何故、曲を奏でて何も感じないのか?


何故、指揮者が演奏のたび首を傾げ顔を歪めるのか?



何故、指揮棒を振り上げ声を荒げ、早口で捲し立てるのか?



詩月は疑問だった。



何度も「音楽は心」と思いながら、その意味をちゃんと理解していなかった



オケはチームワーク。

その事をわかっているようで、わかっていなかった



頭の中で反省と後悔の思いが幾つも渦巻く。




半年間も気付かなかった

気付こうとしなかった


……気付くのが恐かった



苛々するのは、何故かを考えようとしなかった


自分だけが頑張ってる

自分だけが一生懸命やってる

負けられない

潰されたくない



そんなことばかりを考えていた





詩月の瞳に滲んだ涙が一筋、つうぅと頬を伝う。




理久がその涙に気付き、詩月の頭に荒々しく目深くキャップを被せた。





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