風の詩ーー君に届け
「俺たちは、演奏以外に何にもできないけれど、

彼が彼女を変えてくれると、メンバーの誰もが信じているんだ」




理久は苛立ちと怒りが和らいでいくのを感じた。




詩月は間違っていなかった




理久は、そう思った。




電車の中。


「オケはチームワークだ」

と叫んだ理久の言葉に、涙に滲んだ目を向けヴァイオリンケースを抱え、俯いた詩月。



万葉集に残された額田姫王の「熟田津に」の歌を口にし、彼女のように力強くと話した詩月の寂しげな顔も。




無常を詠んだ防人の歌、「鯨魚取り」の歌の意味を話した思いも。




間違ってはいなかった――


理久は、頼りない後ろ姿を見ながら思った。





妹尾が自信満々で奏でる演奏が、陳腐に思える。




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