風の詩ーー君に届け
全身で曲を記憶しようとしている、詩月の華奢な後ろ姿が大きく見え、理久は目を擦る。




妹尾が演奏を終え「ふふっ」と笑い、詩月に楽譜を手渡す。




「……ありがとうございます」




詩月は楽譜を受け取り、パラパラと目を通す。




「頑張って」



詩月は勝ち誇ったような妹尾に、「どうも」と微笑みを返し、ヴァイオリンを取り出し調弦する。




「詩月、大丈夫か?」




「ん……なんとか」




緊張からなのか、熱のためか詩月はまだ顔色が悪い。



「聴いていくだろ!? 音合わせ」




コンマスだと言い、話をしていた男性が理久に訊ねた。




「はい」




「周桜、イケるな!?」




詩月はゆっくりと首を縦に振り、定位置に着く。




音合わせの定刻きっかり。

指揮者が扉を開け、ホールに現れた。



がっしりとした筋肉質、初老の銀髪混じりの髪。

頑固そうな彫りの深い顔をした長身の男は、オケの面々を見回し気忙しく楽譜を繰った。


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