風の詩ーー君に届け
コンマスの男性は唖然としている。




「ただ、楽譜をなぞっただけの演奏になっていませんでしたか?」



肩で息をつきながら、詩月はヴァイオリンを握りしめる。




「シヅキ!」



激しい怒声が詩月の頭上に浴びせられる。



早口で激しく捲し立てる言葉は日本語ではない。




訛りの強いドイツ語だ。



厳つい顔が凄むと、それだけで震えがくるほどだが、怒りに任せ、捲し立てると更に凄みが増す。




詩月は「シヅキ!」という怒鳴り声を聞いて直ぐに、ふらつきながら立ち上がった。



指揮者は楽譜を指差しながら、詩月を見下ろし噛みつくように叫ぶ。





医学部在学中で多少、ドイツ語の解る理久だが、何を言っているのか、さっぱりわからない。



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