恋の逃避行は傲慢王子と
吃音症だって、クローイといる時は特に気になるほどでもなく、普通に話せている。自分を押さえ込んでいるからこそ、それが強く出てしまうだけなのだ。少なくとも、クローイはそう思っていた。
そして今回の一件については、いい加減なワーズナーには怒りをおぼえるものの、それでも、クローイは、『しめた』と思っていた。
こういう絶好の機会は早々訪れるわけではない。
そもそも、アビーが吃音症になったのは、父親の投げかける言葉だけではない。父親に言われている数十倍の言葉を自分に言い聞かせているのだ。
本当の敵は父親ではなく、彼女自身にある。
なぜなら、他人の心ない言葉に同調し、彼女自身が自ら自分を責めているのだ。そのおかげで元々は存在していただろう自信は少しずつ、着実に喪失していく――。結果としてうつむく回数が増え、思ったことがうまく発言できなくなる。これでは男性に見向きされるはずがない。