恋の逃避行は傲慢王子と
実のところ、アビーは初恋すらもまだだった。それというのもすべて、彼女の父親――愚者(ぐしゃ)ワーズナーが邪魔をしてくれているおかげだ。
アビー自身は、男性が寄ってこないのは自分に魅力がないからだと思っているようだが、実際のところはそうではない。問題なのは彼女の容姿ではなく、いつもうつむいていることが原因なのだ。これでは彼女が持っている輝く瞳を見ることができない。
アビーは、自分がどれだけ容姿に恵まれているのかを知らない。
細い眉は弧を描き、二重の大きな目に下がり気味の目尻。腰まである髪は艶やかで、はしばみ色の瞳をしている。そして極めつきはふっくらとした紅色の唇。
彼女はとても愛らしい。
それを彼女自身が知るためには自分に自信を持つことが大切だ。
それにはまず、アビーのコンプレックスでもある吃音症を和らげなければならない。