恋の逃避行は傲慢王子と
クローイは、アビーよりもずっと、『できる女性』だ。それは専属の運転手がいるにもかかわらず、彼女自身も車の免許を持ち、八カ国語も話せるというだけではない。彼女はチャレンジ精神たっぷりの、自信あふれる魅力的な女性だった。
それは彼女の容姿にもあらわれている。金色のショートボブに、たまご型の輪郭をなぞる前髪。気が強そうな尖った顎。ほっそりとした流れるような目と、左目には色香を感じさせる泣き黒子がある。それにふっくらとした唇。
申し分ない容姿をしている彼女は、これまでに男性と付き合った数は五本の指では数えきれないほどだ。
そして今もクローイには恋人がいる。彼女がフリーな時間はいつだって、とても短かい。
生まれてこの方、男性と付き合ったことはおろか、初恋さえ知らない、『でくのぼう』の自分とは比べ物にさえならない。
「待って待って待って。アビー、どういうこと? 何を言っているの?」