恋の逃避行は傲慢王子と

 クローイはパニックに陥(おちい)っているアビーを制した。しかし内心では、常に物静かなアビーがヒステリックになっていることに驚いていた。

 なにせいつもなら、感情的になるのはクローイの方で、物静かなアビーは彼女をなだめるのに大忙しなのだ。

 けれども今は違う。

 電話越しで慌てているクローイの感情を感じ取ったアビーは、それもそうだろうと思った。



 なにせアビーは彼女と電話が繋がるなり、『ここから逃げたい』と話したのだ。彼女が困惑するのもよくわかる。


 けれど今、親友のクローイ以上に混乱しているのはほかでもない、アビー自身だった。



「ああ、お願いよ、助けてクローイ!! こ、この……このままじゃ、わたし、面識もない男性と結婚させられるわ! しかも、二十も年が離れた男性と!!」



 アビーはクローイの言葉を聞き入れる余裕すらなく、ひと息にそう言うと、目を閉ざし、唇を噛みしめた。

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