恋の逃避行は傲慢王子と
アビーは、移動する車の中でさえもひたすら引き結んでいた唇をやっとのことで解いた。それから膝の上で握っていた拳をひろげて、緊張を和らげるため、目の前にあるグラスになみなみと注がれている冷たい烏龍茶を喉へと流し込んだ。
どうやら自分が思っていた以上に、喉はからからに渇いていたらしい。烏龍茶が食道を通ると、ヒリつくような痛みを感じた。
それからひと呼吸おいた後、アビーはふたたび口を開いた。
「ちっ、父の会社が倒産寸前になっていたことをさっき知ったわ」
それは夕食後のことだ。父は突然あらたまり、母親と自分に会社が倒産の危機にあることを話し出した。
思い出しただけでも胃がキリキリと痛む。
アビーは目を閉ざし、感情を押し殺し、言葉を連ねる。
「それで?」
「融資をしてくれる男性が現れてくれたわ」
アビーはクローイの問いに短く答えた。