恋の逃避行は傲慢王子と
眉間に皺を寄せ、問うクローイに、アビーは自分が怒られているかのように感じた。顔をうつむけ、ごくごく小さな声で、続けて話す。
「会ったこともない人と突然結婚だなんて……。しかも相手はわたしよりもずっと年上なのよ」
最後の方は、すっかり萎(しぼ)みきっていて、もう言葉になっていなかった。
それでもクローイには、アビーが何を言わんとしているのかを理解していた。
『ずっと年上』とはずいぶんと控えめな言葉だと、クローイは思った。
実際のところ、アビーは二十六歳で、対する相手は一回り以上も年上だ。
「それで? 相手の男性とは何歳違うの?」
「……二十四」
クローイの問いに、アビーはゆっくりと答えた。唇はまだ閉じない。どうやらアビーには、まだ続きがあるらしい。
「わ、わたし……その人と口を利いたことはおろか、会ったこともないのよ」