カットハウスやわた
五月に入ってすぐ、私は、月光町を出てゆくことになっていた。未練は、ない。でも、ほんの少しだけ、寂しい気持ちになっていた。


朝十時…約束通り、熊野さんから連絡があった。


『おはようございます。引越業者がただいまそちらに向かっております。このまま、スムーズにいけば、あと三十分くらいで到着いたしますので、よろしくお願いします』


ワンルームの私の部屋の荷物は、本当に少ないものであった。正樹にもらった物や写真をすべて捨てたから、余計に。


窓越しに晴れた空をぼんやりと眺めながら、近所のマンションのベランダで泳ぐ小さな鯉のぼりに目をやった。


未練は、ない。
この街にも、正樹にも。
未練なんか、ない。



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