カットハウスやわた
「もしかして、おじゃまかな……」


そう言って席を外そうとした八幡さんの腕をガシッと掴んだ。


「なにか、オススメはありませんか?」


驚いて、目を丸くする八幡さんであったが、私が腕を放すと、いつもの穏やかな口調で言った。


「スフレ、おいしいですよ」


「じゃあ、それを……」


ふたりの会話を聞いて、熊野さんがコーヒーと一緒に注文してくれた。


「真矢、今度の日曜日……」


「私、八幡さんの店で働くことになりました」


熊野さんの言葉を遮るように言った。


「そうなんだ?だから今日、一緒にいるんだ?」


「そうだよ。働いてもらえるんだから、食事くらい、サービスしないと」


「まさやんのことだから、惣菜屋にでも連れて行ったんだろ⁉︎」


「とってもおいしかったですよ!」


熊野さんの口調にカチンときて、上から被せるように言った。


「そう言ってもらえると…うれしいな」


八幡さんは、照れ笑いを浮かべた。


「まさやん、わかってないな。真矢に相応しい店があるだろ?今度、連れて行ってあげるよ、真矢……」


熊野さんが目配せをして、私は違う意味でクラッとした。私に相応しい店って、どこなんだろ?


そのうち、できたてのスフレが運ばれた。フワフワな口溶けは、まるで淡雪をほうばるようで…。


お、おいしい!


ふたりのことなんか忘れて、スフレに夢中になった。



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