カットハウスやわた
古い団地の一階に『ケアプラザキズナ』はあった。表の掲示板には、今月の行事予定が書かれていたが、その中に‘‘出張散髪”の文字をみつけた。


入口のすぐ隣の部屋に、おばあさんたちが椅子に座っているのが見えた。みな、楽しそうに笑っている。その視線の先には、左手でハサミを持ち、右手で丁寧に髪を触っている八幡さんの姿が見えた。


私はしばらくガラス越しに、その姿を見つめていた。なにやらおばあさんたちと話しながら、髪を切っている。八幡さんに髪を切ってもらったおばあさんは、少女のようなかわいらしい笑みを浮かべていた。


素敵……だな。自分の技術で、誰かを笑顔にさせるんだから。そう思いながらぼんやりと見ていると、部屋の中にいる八幡さんと目が合った。軽く会釈をすると、手でおいでとしている。


戸惑いながら、中に入る。職員からとがめられることもなく、すんなりと部屋に入ることができた。


「綴喜さん、よくここがわかったね」


八幡さんが笑顔で迎えてくれた。もちろん、職員やおばあさんたちも。


「『出張散髪してる』と聞いたので、ここかな?と……」


「あとひとりで終わりだから、ちょっと待ってて?」


私は黙ってうなずくと、八幡さんの仕事っぷりを見学した。いつも見ている光景だけれど意外と飽きないのは、その技術の高さと、美しさにあるのかもしれない。


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