カットハウスやわた
「おまたせ」


しばらくすると、アイスコーヒーとラスクを運んできてくれた。


「あ、これ、ベーカリーの……」


「そう!オレ、大好きなんだ」


「私もよく買います」


「さっきの話、だけど……」


八幡さんがそう言った時、テーブルの上のスマホが着信を知らせた。‘‘久世さん”と表示されている。八幡さんは小さく「ごめん」とつぶやくと、着信に応じた。


「はい、八幡です。あ、はい……仕事は終わったんですが……」


バーベキュー主催者からの電話だ。人付き合いの良い八幡さんがこないから、心配して電話をよこしたのかもしれない。


「なんだか、腹の具合が……え?飲み過ぎだ……って?ははは、そうかもしれませんね。今もトイレの中です」


八幡さんは、適当な嘘をついて電話をきった。申し訳ない気持ちでいっぱいになったけれど、私のために嘘をついてくれたことは、素直に嬉しかった。


「……すみません」


「いいよ。気にしないで!それより、さっきの話が気になるよ」


八幡さんの大きな目が、ギロリと私を見る。その目に、妙な安心感を覚える。彼になら、心を許しても良いかも……って。


「彼は、ちょっとナルシストなところがあるけれど、優しくしてくれると思うよ」


「彼を……正樹を、忘れさせてくれると言いました」


八幡さんは、ラスクに手を伸ばした。サクッと香ばしい音と、ほんのり甘い香りがした。


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