カットハウスやわた
「ごめんね、綴喜さん……気を悪くしたんじゃないかな?」


「いえっ‼︎」


私は勢いよく椅子に座ると、アイスコーヒーを飲んだ。なんだか喉がカラカラになっていた。


「あの……八幡さん……あの人は…」


「ああ!オレの奥さん。男ができたから……って、突然、家を出て……」


「『星になった』って…?」


「他の男の『星になった』って意味」


普通、『星になった』って言ったら、死んだと思うでしょ⁉︎紛らわしいわ!と、心の中でつっこんだ。


「でも、もともとはオレが悪いんだよ」


八幡さんは、ラスクをひと口食べると、ため息をついた。


「彼女とは、街のオシャレな美容室で知り合った。あの当時オレは、今より十キロ以上痩せてて、色黒だから……サーファーってことになっててさ。泳ぐのも苦手なのに……」


「サーファーってことになる⁉︎どういう意味ですか?」


「店の方針で、男はみんな‘‘趣味”を持たないと客に支持されない……ってことで。イケメンじゃないオレは、カッコいい‘‘趣味”を持て……と」


「サーファーじゃないのに、フリしてたんですか⁉︎」


「そう。オレ、見た目がそうだったから、サーフィン専門誌を読んで勉強した」


麗奈さんは、偽サーファーの八幡さんにひっかかった……ってわけ?

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