カットハウスやわた
一番安いコースが三千五百円……か。これにお酒を追加注文したら、結構な金額になるな……。


「今日は……ちょっと贅沢をしたい気分だったから、ここに来たんだ。綴喜さんも、遠慮せずに注文してね」


「いえ!今日は、私が……」


「綴喜さんは、大事な従業員だからね。好き嫌いは、ない?」


「あ、はい……」


……大事な従業員……か。


八幡さんが注文用のベルを鳴らした。結局、五千円のコースと、おいしい日本酒を注文してくれた。


「綴喜さん」


「はい……」


「オレ、離婚する。だから、今まで通り、うちで働いてもらっていいからね。新しい仕事が、見つかるまで……」


「離婚……ですか⁉︎」


チラッと八幡さんの左手の薬指を見ると、昨日まであった指輪が、外されていた。やり直すとばかり思っていたから、意外だった。


「昨日、麗奈さんに会って、わかった。オレはもう、この人を好きじゃない……って」


お茶をひと口飲んでから、八幡さんは続けて言った。


「麗奈さんは、口ではキツイことを言うけれど、本当は寂しがり屋で、誰かに甘えたい人なんだ。今まではオレが甘えさせてあげていたけれど、オレじゃなくてもいい気がしてね。それで、離婚しようと思った」


「でも……そんなにすんなりいくもんなのでしょうか?」


「別れにすがって生きるような人じゃないと思うから……」







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