カットハウスやわた
「おはよう、真矢」


翌朝、ベーカリーの二階で熊野さんに遭遇した。挨拶をすると、私の前に座った。笑顔は、ない。ずいぶんと不機嫌な感じだ。


「おはようございます」


上目遣いで挨拶をすると、すぐにトレイを賑わすパンたちに視線を向けた。


「ねぇ、まさやんとは、どういう関係なの?」


えっ?思わず、視線を向けた。視線の先の熊野さんは、相変わらず不機嫌であった。


「店長と店員の関係です」


「そのわりには、バーベキューもふたりして来なかったし、昨日もふたりで食事に出かけた」


熊野さんは、勝手に私のラスクの袋に手を伸ばし、バリボリと音を立てて食べ始めた。


「昨日は、確かに食事に行きましたけど、なにもやましいことはないし、バーベキューは……」


さらにラスクに手を伸ばす熊野さんの手を制して、私のほうに引き寄せた。


「熊野さんに告白されて、行きづらくなっただけです」


「……あ……そう。まさやんには、気はないんだね?」


八幡さんに気はないの?ねぇ?真矢……。自問自答してみる。


「いい人だとは、思いますけど」


私を、単なる従業員としか見ていない。きっとそこには恋愛感情なんかないだろうし……。


「いい人か……確かに。じゃあ、オレは?」


熊野さんは、なにを思ったのか、私の手を強く握った。ラスクのついた手で。


「見た目、かっこいい人です」



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