カットハウスやわた
「見た目、だけ?」


「とりあえず、ラスクのついた手を放してください」


熊野さんは慌てて手を放し、私は自分の手についたラスクのくずを、おしぼりで拭いた。


「……そういうわけですので……」


私はつぶやくように言うと、立ちあがった。


「どういうわけだよ?真矢」


「ごめんなさい」


深々と頭を下げてから、熊野さんをおいて、ベーカリーを出た。外は、今日も朝から暑かった。私の顔が熱いのは、暑さのせいだけではなかった。


「おはようございます」


店に入ると、八幡さんは座ってスポーツ新聞を読んでいた。広げた新聞から、ちょこっと顔を出す。


「おはよう」


今日は、逆さじゃない。エロい記事じゃなくて、サッカーの記事を読んでいるに違いない。私は、少しホッとすると、エプロンをつけて外に出た。


「掃除、してきまーす」

< 79 / 90 >

この作品をシェア

pagetop