カットハウスやわた
まだ、開店まで時間があった。


「なに?」


振り返った八幡さんの目は、寂しげに笑っている……ように見えた。八幡さんは、私が正樹とやり直すに違いないと思っている……気がした。


いや、寂しげに笑っているように見えたんじゃなくて、寂しげに笑っていてほしい。そして、私と正樹がやり直してほしくないと思っていてほしい。


私を、引き止めてほしい。心の奥底でそう願っていた。


「これからどうすればいいんでしょうか?」


「それは、綴喜さんの思う通りにすればいいよ。昨日、正樹さんと話し合ってきたんでしょ?」


八幡さんは、穏やかな笑みを保ったまま、そう応えた。


「私の、腹は決まりました。ただ、八幡さんの意見が聞きたいんです」


「オレの意見?」


「はい。正樹と、やり直してもいいんでしょうか?」


私は、八幡さんの大きな目を、真っ直ぐに見つめた。笑みを消した八幡さんが、私を真っ直ぐに見つめ返す。


< 88 / 90 >

この作品をシェア

pagetop