カットハウスやわた
「私も……セクハラされて、彼氏に裏切られて……どうしようもない時に……八幡さんと出逢ってしまいました」


最初は、全く興味がなかった。もう二度と会うことはない……そう思っていた。


それが……何度か会って、仕事をすることになって、八幡さんと過ごす時間が増えて……。


普段は穏やかで、人に口出しはしないけれど、いざ……って時、冷静に、的確に、親身になってくれる……。


情緒不安定で癒してほしいと思ったあの日、バーベキューをキャンセルして話を聞いてくれた。あの日からだよ、なんだか気になる存在になったのは……。でも、恋に臆病になっていて、自信もなくて……。


鏡越しの八幡さんが、鏡に映る私を見つめている。


「‘‘正樹”と‘‘正海”じゃ、えらい違いだけれど……引き止めても、いい?」


「はい」


「小さな散髪屋で、退屈させるかもしれないけど……」


「私、大好きなんです。美味しいものや笑顔があふれている、この商店街と……」


カランコロン……と、ドアが開く音がして鏡越しにみつめ合っているふたりは、笑い合った。


「いらっしゃいませ」


八幡さんが立ちあがり、お客様を迎えた。いつもの常連さんだ。シャンプー台に案内すると、ゴツゴツとした大きな手で優しくシャンプーを始める。


今日、仕事が終わったら、八幡さんに髪を切ってもらおう。シャンプーをしてもらって、新しい私にしてもらおう。


八幡さん好みの、新しい私に。


(おしまい)


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