家出少女と風花寮
私と青木君は顔を見合わせた後、中島君に従った。

「でさぁー、ふたりはとーっても仲いいよねぇ。今日もイチャイチャしてたしぃー。付き合ってんの?」

身を乗り出して聞いてくる中島君に、応えるのは青木君。

「付き合ってもらってますよ。それがどうしたんですか、仲間に入れて欲しいんですか」

眼鏡光らせて嬉しそうな青木君。
どうせ、同性の同士が増える、とか思っちゃってるんでしょう。
だけどね。

「青木君……誤解を生むような表現はやめようか。………違うからね。付き合ってるって、恋人とかの意味で付き合ってるじゃないからね」

なんで私が弁解しようと奮闘しなければならないのか。

「じゃー、どーゆー意味?」

「えと、話すと難しいのですが………。青木君の趣味のイチャイチャ鑑賞を、青木君の解説付きで、見てるのに付き合ってるっていいますか………」

混乱しながらも精一杯伝わるように口にする。

「必死すぎー」

あろうことか、中島君は一生懸命話す私を笑い者にした。
恥ずかしくて消えてしまいたい……。

「…………必死で何が悪い……」

隣から低い声がした。
横目で見ると、眼鏡を曇らせ、肩をわなわなさせている。

「少なくとも、あなたみたいにヘラヘラした人より、よっぽどいい!」

そして、声を荒げ、卓に両手を叩きつけた。

「へぇー。庇うんだ」

「僕たちは、同士であり、友達、ですから」

「青木君……」

まさか、友達だと思ってくれていたなんて。
マシンガンのように理解不能な言語を浴びせられる、ただの下僕とか、そういうのに思われているものと……。

「友達ならいっかー」

悪気なく私の感動に浸る時を壊した中島君。

「ゆきちゃん、オレと付き合ってよ」

「はぁ?」

そして放つ、衝撃のひとこと。

ほうける私と青木君を置いて、彼は話しを進める。

「オレ今フリーなんだよねぇ。たとえ地味子ちゃんでも彼女いないとカッコつかないじゃん?」

「昨日彼女と歩いてんの見たぞ」

そこに乱入したのは、北山君。

「すごい音がしたと思って来てみたら、なに同居人の女口説いてんだ」

「女の子は等しくマイスウィートなんだよー。それにー、昨日の子とは別れたよぉ」

「遊び過ぎが祟ってフラれたか?」

「オレからフったのー。あの子はオレの運命の相手じゃなかったみたいだから」

「どの口がマイスウィートなんて言いやがる」

「この口この口!」

「……縫い付けてやろうか?」

どこからかソーイングセットを持ち出し、掲げる。
この紋所が目に入らぬかとな。

「オレの口を塞いでいいのは、ハニーの唇だけさ」

「よし、縫おう」

「え、本気……?」

「………」

「……………」

北山君が近づくたび、中島君がジリジリと後ずさる。
何歩か進んだところで、中島君は逃げ出した。

「うし、撃退成功」

そんなふたりのやり取りがあった中。
……私の隣では、青木君が悶えていた。
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