家出少女と風花寮
1号室
北山貴伊智という男
乗車券を自動改札機に通して、新しい地へ降り立った。
正面にはロータリーとバス停。
左はコンビニ。
右には券売機の先に広場が見えた。
とりあえず、邪魔にならなそうな右の方に移動して、『風花寮入居のお知らせ』についていた地図を広げる。
今いる所は駅だから、あそこに見える橋を渡って……。
地図と周りの景色を見比べていると、少し離れた所で、桜の木を背に腕組みして立っている人と目が合った。
切れ長の目に明るい色のウルフカット、身長もそこら辺の人より高くて、腰からシルバーチェーンがのぞいている。
一言でいうなら、怖そうな青年だ。
すぐに視線を地図に戻し、そそくさとこの場を離れようとしたが。
「あんたが福井ゆきか?」
彼の方から近付いて、声をかけてきた。
顔に似合った不良のような声に、足がすくむ。
来て早々、運がない……。
「…………誰ですか……」
カラカラになった喉からは、蚊の鳴くような声しか出なかった。
私には、あなたのような知り合いはいないです。
なんて、声を大にして叫べたらいいのに。
むしろ、人違いと言って足早に抜けるべきだったか。
ぐるぐる悩んでいると、彼が口を開いた。
「俺は北山貴伊智、あんたが今日から住む風花寮の住人だ。大家さんに代わって迎えに来た」
風花寮の……。
この人が………。
「本当に?」
「ま、初めて会ったばかりだから仕方ない、か」
彼は少し考えるようにしてから、ポケットからチェーンにつながれた財布を出すと、中から一枚のカードを取り出した。
「ほい、身分証」
「はぃ、拝見します……」
出されたものを両手で受け取る。
学生証だ。
若草高校、北山貴伊智。
住所は、風花寮1号室。
顔写真も、少し幼いが彼で間違いなさそう。
「これで信じてもらえたか?」
「……はい」
丁重にそれをお返しした。
「んじゃ、行くか。…………っと、やっぱちょっと待ってくれ」
学生証を財布に戻し、北山君は柄の悪そうな3人組に向かっていく。
「おい、お前ら」
低めの声に、私に向けられたものではないとわかっていながらも、固くなる。
「ああん? なんだよ」
「それ、落としてんぞ」
彼が指したのは、3人組の足下に転がっている空き缶やビニール袋。
「なんだよ説教か?」
「俺らと同族のくせに、正義ぶってんじゃねぇぞ!」
1人が北山君に殴りかかる。
私はとっさに目を閉じた。
バキッボキッ。
ドサッ。
「……誰が同族だっつの。俺はポイ捨てなんかしねぇ」
北山君の声に、身をすくめながらも薄目を開く。
汚れを払うように手をはたいていた彼の足下には、3人組が転がっていた。
「……………すごい……」
思わず感嘆の息を漏らすと、転がった3人が怯えた声を出す。
「なんだこいつ、強えぇ」
「ずらかるぞ!」
「ああ……!」
「待て! これ持ち帰れ!」
制止の声を聞き届けず、腰が抜けたのか、這うように逃げる3人組。
しかも速い。
「ちっ………」
北山君は彼らの落とし物を拾い、広場のゴミ箱に捨てた。
「悪ぃ、待たせたな」
「い、いえ……」
私は彼に駆け寄った。
いい人だ。
怖い人なんて思ってごめんなさい。
正面にはロータリーとバス停。
左はコンビニ。
右には券売機の先に広場が見えた。
とりあえず、邪魔にならなそうな右の方に移動して、『風花寮入居のお知らせ』についていた地図を広げる。
今いる所は駅だから、あそこに見える橋を渡って……。
地図と周りの景色を見比べていると、少し離れた所で、桜の木を背に腕組みして立っている人と目が合った。
切れ長の目に明るい色のウルフカット、身長もそこら辺の人より高くて、腰からシルバーチェーンがのぞいている。
一言でいうなら、怖そうな青年だ。
すぐに視線を地図に戻し、そそくさとこの場を離れようとしたが。
「あんたが福井ゆきか?」
彼の方から近付いて、声をかけてきた。
顔に似合った不良のような声に、足がすくむ。
来て早々、運がない……。
「…………誰ですか……」
カラカラになった喉からは、蚊の鳴くような声しか出なかった。
私には、あなたのような知り合いはいないです。
なんて、声を大にして叫べたらいいのに。
むしろ、人違いと言って足早に抜けるべきだったか。
ぐるぐる悩んでいると、彼が口を開いた。
「俺は北山貴伊智、あんたが今日から住む風花寮の住人だ。大家さんに代わって迎えに来た」
風花寮の……。
この人が………。
「本当に?」
「ま、初めて会ったばかりだから仕方ない、か」
彼は少し考えるようにしてから、ポケットからチェーンにつながれた財布を出すと、中から一枚のカードを取り出した。
「ほい、身分証」
「はぃ、拝見します……」
出されたものを両手で受け取る。
学生証だ。
若草高校、北山貴伊智。
住所は、風花寮1号室。
顔写真も、少し幼いが彼で間違いなさそう。
「これで信じてもらえたか?」
「……はい」
丁重にそれをお返しした。
「んじゃ、行くか。…………っと、やっぱちょっと待ってくれ」
学生証を財布に戻し、北山君は柄の悪そうな3人組に向かっていく。
「おい、お前ら」
低めの声に、私に向けられたものではないとわかっていながらも、固くなる。
「ああん? なんだよ」
「それ、落としてんぞ」
彼が指したのは、3人組の足下に転がっている空き缶やビニール袋。
「なんだよ説教か?」
「俺らと同族のくせに、正義ぶってんじゃねぇぞ!」
1人が北山君に殴りかかる。
私はとっさに目を閉じた。
バキッボキッ。
ドサッ。
「……誰が同族だっつの。俺はポイ捨てなんかしねぇ」
北山君の声に、身をすくめながらも薄目を開く。
汚れを払うように手をはたいていた彼の足下には、3人組が転がっていた。
「……………すごい……」
思わず感嘆の息を漏らすと、転がった3人が怯えた声を出す。
「なんだこいつ、強えぇ」
「ずらかるぞ!」
「ああ……!」
「待て! これ持ち帰れ!」
制止の声を聞き届けず、腰が抜けたのか、這うように逃げる3人組。
しかも速い。
「ちっ………」
北山君は彼らの落とし物を拾い、広場のゴミ箱に捨てた。
「悪ぃ、待たせたな」
「い、いえ……」
私は彼に駆け寄った。
いい人だ。
怖い人なんて思ってごめんなさい。