家出少女と風花寮
居間に教科書とノートを積み上げる。
なぜ居間かというと、私の部屋も青木君の部屋も、自分用の机しか無いからだ。

「……僕は、苦手な教科を持って来てと言ったはずなんだけど」

「…………すみません」

「もしかしなくても、全教科?」

「……………………すみません」

図々しくも全教科持って来てしまった。
青木君は顔を引きつらせる。
彼には彼の勉強もあるのでしょうし、頼るべきでは無い。

「すみません、やっぱり、独りでやります」

「いいよ、一緒にやろう。分からなかったら呼んでもらったらいいから」

「はい………」

そうして私達は黙々と卓に向かった。
私は問題集とにらめっこ。
静かな空間に、青木君のページをめくる音だけが響く。

「手が止まってる」

「うっ……すみません………」

「いいよ、どこ?」

青木君が手元を覗き込んで来た。

「ああ、そこは………」

教科書の該当するページを開いて、見せてくれる。

「ありがとうございます」

「いいえ」

青木君はまた、教科書の黙読に戻った。
それを何度か繰り返していると。

「たっだいまー」

住人が帰って来たようだ。

「あっれー、ゆきちゃん青木ちゃんと勉強中?」

「はい……」

「ふーん」

中島君は居間に入るなり私の隣に腰を下ろして。

「そんなことはいいから、オレと遊びに行かない?」

「えと………」

「邪魔すんなよチャラ男」

「邪魔なのはどっちさ。ゆきちゃんも、こんなモサ男と勉強より、オレと遊びたいよねー」

「あの……」

「いい加減にしろ、ここから失せろ!」

敵意むき出しの声に、私は驚いて青木君を見る。
あの、欲に忠実ないつも萌えーとか言ってる青木君が、失せろとか言うなんて……。

「先輩に向かって、酷い言いようだねぇ」

「先輩なら先輩らしく、手本になる行いをしたら如何ですか?」

「してるじゃん、可愛い後輩を息抜きに誘ってさ」

「勉強の邪魔してるんですよ。未来の同士を補習送りにはさせない!」

不覚にも、青木君かっこいいと思ってしまった。
でもやっぱり、青木君は青木君だ。

何故だろう、ホロリときた。
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