家出少女と風花寮
翌朝から、中島君の猛アタックが始まった。
通学路を歩いていると。
「りおちゃーん、一緒に行こぉー」
「くっつくなー!」
私と青木君の間に割って入り、私は車道に押し出された。
幸い、近くを車は通ってなかったけど。
「…………あっぶなかった……」
下駄箱でも。
「よしっ、りおちゃんの靴箱にラブレターないねー」
「あるわけないし、2年の靴箱はここじゃないですよ」
しっしっと青木君が追い払うが。
またすぐこっちに来る。
そして。
「りおちゃんのクラスここ? みんなー、オレのりおちゃんに手ぇださないでねー」
ついには1年の教室にまで来た。
先輩が来たことによりざわつく教室。
「りおちゃん?」
そこに居た者の視線が一斉に、中島君の後ろにいた私に集まる。
違う、と手と首を振りまくった。
「りおちゃんはこっちー。それは、りおちゃんにつきまとう卑しい女」
私が中島君に何をしたというのでしょうか。
すんごく、見下されている。
ゴミ以下の虫ケラでも見るような冷たい目が、とにかく怖い。
逃げるように身を小さくしていると。
「福井氏を悪く言うことは許さないよ」
「青木君………」
隣にいた青木君が庇うように前に立ってくれた。
中島君のお綺麗な顔により濃い陰がさす。
「………なんで、そいつをかばうの?」
「そんなの、福井氏が僕の同志だからに決まってる!」
「青木君……………」
まずい、泣きそう。
私、青木君の同士じゃないよ。
「ふぅん、同志…………」
考えるように口にしてから、満開の笑みを浮かべた。
彼の豹変ぶりにスクールバッグを抱きしめた。
中島君と正面で睨み合う青木君は、私以上に泣きそうになっていると思う。
上半身は取り繕っても………脚が大笑いしているよ。
「りおちゃん、ちょっと待っててね」
急接近する中島君の顔が青木君に重なり、チュッと音をたててから離れた。
一部の女子がきゃぁと声をあげる。
青木君、あそこに、あなたの本物の同志が居ますよ。
「なっ、なっ…………!」
「またね、りおちゃん」
意味をなさない声を漏らす青木君を置いて、颯爽と背を向ける中島君。
私達傍観者は状況に取り残されたまま。
授業開始の鐘が鳴るまで立ち尽くして居た。
その瞬間から、中島君に付きまとわれることはパタリとなくなった。
………かに思えた数日後の夕食。
中島君は再び猛アタックをしかけていた。
「聞いて聞いて! オレ、りおちゃんの為にBL勉強したんだよー」
「そーですかー、殊勝な心がけですねー」
「これでオレもりおちゃんの同志だよ」
「簡単に同志語ってくれるな」
七三分け眼鏡はチャラ男を軽くあしらう。
チャラ男モードなら怖くない。
部外者は黙々と食を進める。
「不良、お人好し、平凡、イケメン、男前、いろんなジャンルがあるみたいだね」
「そうだなー」
「りおちゃんはどのジャンルが好き?」
「ハッピーエンドは全部好きだよ」
「オレはチャラ男攻めの腐男子受けが好きー」
「へー」
「メガネをとったら可愛いってのも王道らしいじゃない?」
「………それがどうした?」
青木君は眼鏡を陰らせ、箸を置く。
「オレ達、とーってもお似合いだよねー」
はい、あーん。
おかずの肉団子が中島君の箸から青木君の口の中へ。
「……んなこったろうと思ったよ!」
「りおちゃんの願いを叶えようっていうんだから、理解ある彼氏でしょー」
「彼氏じゃないですし! 理解あるなら僕じゃない人と付き合ってよ。双子兄とかさ」
「いーや。りおちゃんがいいの。オレって一途でしょー」
「一途攻めはポイント高いけどもっ!」
「しかも、元浮気性が1人に絞った時がなお良し! まさにオレ!」
「僕じゃ萌えないんだよ!」
青木君の悲痛な叫びは、無慈悲にも黙殺される。
「アキちゃんにはシュウちゃんがいるじゃん?」
「はっ、そうか、双子仲を壊すことなんて僕には出来ない……っ」
「近親相姦萌えー、かーらーのー、略奪愛萌えー!」
「おっ、わかってるねぇ」
双子仲を壊せないんじゃなかったのかな。
「それでもやっぱり元サヤに収まるのが一番かなー」
「いやいや、妥協案3Pも捨てがたいっ」
「3人はハードル高いなー。りおちゃんは一途な相思相愛が好きでしょー?」
「下手したら尻軽だけど、上手くバランス取れてる作品はほんと素晴らしいよ! その最たるものが双子プラス1なんだけど、ああ、勿論双子は左側確定ね」
青木君はとても楽しそうに、自身の萌えを語り。
「うんうんー」
対する中島君も、それはそれは楽しそうに青木君の萌えを聞いている。
彼は今や、私よりも立派な青木君の同志であると思うのです。
ただ、現在夕飯中。
園田双子ご本人を目の前に語る、その図太い神経だけはどうにかしていただきたい。
中島健吾という人物は、現在特定の人にお熱のようです。