家出少女と風花寮
団体が過ぎ去った後、私もスクールバッグを持って席を立つ。
教室を出て、下駄箱に来ると、見覚えのある小さな背中が見えた。

「あれ、アキ君?」

「福井さん………今帰りなの?」

「うん」

下駄箱に上靴を入れたばかりの彼がこちらを向く。
やっぱり、風花寮の双子の兄だった。
彼らはにこいちだったから、単体で見ると新鮮だ。

「…………シュウ君は一緒じゃないんだ?」

「シュウは先生に呼び出されて………一緒に帰らない?」

「いいですよ」

靴を履き替え、待っててくれたアキ君に並ぶ。

「初めてだね、一緒に帰るの」

「そうだね、私はいつも青木君と一緒だったし」

「…………………」

「アキ君と話すの、初めてな気がするよ」

「シュウがいつも一緒にいたから…………」

「…………………」

「…………………」

特に何かを話すでもなく、並んで歩く。
話題がなくて、とても気まずい。

「…………」

ふと、隣の彼が立ち止まった。
私も半歩先で足を止める。

「………ねぇ、寄り道しない?」

身長の低い彼はただ私を見上げているのでしょうが、それは可愛い上目遣いのおねだりに見えた。

「高校生にもなって、寄り道しないなんてもったいないから、ね?」

「………うん。友達と寄り道って、実は憧れだったんだ」

嘘じゃない。
彼のことを友達と呼ぶ形になってしまったことは失敗したと思ったが、本人は気にしていないようだった。

「この道……いつも学校と寮の往復だったから、初めて通ります」

「ボクも………」

気の向くままに、住宅街を行くと。

「これ………」

「コーヒーだね」

かぐわしい香りに誘われて、私達は行き先を決める。
より、香りの強くなる方へ。

路地裏のすこし奥まったところ。
小さなログハウスのような建物があった。
看板は達筆すぎて読めないけど、香りはここから漂ってくる。

「ここ、みたいだね」

「………はいってみる?」

「うーん…………」

「………どう、かな?」

「…………………せっかくだし、入りましょう」

「うんっ」

ねだるようなつぶらな瞳に抗えるほど、私は非道じゃないつもり。
アキ君はその喫茶店の扉を開けた。
ちりん、と軽い音がして。

「いらっしゃい」

正面のカウンターの向こうにいる青年に迎えられた。
小さくお辞儀して、隅の窓際の席に座る。

外観もそうだけど、中も木でできていて、温かみのある店だ。
別のテーブルでは、まんまるい黒猫がひなたぼっこしている。
店内に流れ始めたのは、ジャズかクラシックか。
テーブルを挟んだ向かいに座るアキ君と目が合って、にこりと笑まれた。
私もそれに、へらりと返す。

困った時は、反射で笑ってしまう。
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