家出少女と風花寮
顔色が若干悪くなったアキ君は両手と顔をぶんぶん振って拒否を示すが、中島君は青木君に向けて親指を立てる。
青木君は眼鏡を曇らせ、唇を引き締めていた。
膝の上の拳もプルプルしているが。
………耐えていて偉いですね。
さて。
お二方ともやり切った顔してますが、いったい何を吹き込んだのかこの人たちは。
「不毛な争いはやめにしませんか?」
「大家さんが諦めたらいい」
「可愛い店子のため、諦めるわけにはいかないんですよ」
「オレだって、可愛い兄さんを守るため、譲れない」
会話しながら、手は休みなく動かし続けている。
カッカッカッ、カッ、ピキッ。
本来の使用用途で使われなかったボールペンと朱肉ケースが破壊されたと同時に、中島君がアキ君の背中を突き飛ばす。
「はいどーん!」
「うわあぁぁ!」
倒れるアキ君の顔面を背中で受けたシュウ君は、ちゃぶ台の角に胸を打ち付けた。
「わあぁぁぁん! ごめんシュウ! 大丈夫!?」
「アキ、ここであのセリフだよん」
慌ててシュウ君の体を揺さぶるアキ君に、中島君が浮かれた声援を送る。
「えと、ぇと……」
アキ君は少しためらった後。
一瞬の静寂。
「僕のために、あらそわないで……?」
俯きながら蚊の鳴くような声を発した。
彼の髪の隙間から覗く肌が朱に染まっていく。
恥ずかしくもなるよね、いつの時代の台詞かって。
「キャーッ!」
それをお気に召したらしい青木君は眼鏡を曇らせ奇声を上げた。
「りおちゃん、オレやったよ!」
「さすが王道! 王道は廃れない! 王道は王道たる王道で!!」
「りおちゃん! ご褒美にデートしよ!」
「王道が王道の王道になって!」
「りおちゃんりおちゃん」
「やっぱ王道サイコー!」
赤面して小さくなるアキ君を挟んで、中島君と青木君が騒ぎたてる。
ちゃぶ台に伏せるシュウ君の顔から、血が広がっていた。
騒ぐのをピタリとやめた青木君は、曇った眼鏡を外し、己の鼻をつまむ。
「すみません、興奮してしまって。ティッシュ、とってもらえますか?」
「あ、鼻血……」
ブラコンと腐男子の流血沙汰で、部屋替えバトルは一時休戦。
外野も沈黙。
カワイイは、平和をつくる。
結論、王道サイコーだったらしい。