家出少女と風花寮
ちゃぶ台に広がる血を北山君が拭き終わったところで、大家さんは2本目のボールペンと、朱肉をちゃぶ台に置いた。

「こんなこともあろうかと、契約書の予備、用意してあります」

大家さんは初めから、こうなることを予想してたのでしょうか。

両鼻にティッシュを詰めたシュウ君は、今度は大人しくサインした。
あんなに抵抗していたというのに、今は心なしか満足げである。

「さて、では皆さん、働いてくださいますか」

ぽんと手をたたき、爽やか笑顔の大家さんが何を言い出すかと思えば。

「働く?」

「ええ。総出でやればすぐに終わりますよ」

何を、なんて、聞かずともわかる。
アキ君の部屋移動だ。

「これ以上遅くなるとご近所迷惑になります。ほら、さっさと動く」

「はいっ!」

私たちは一斉に動き出した。

「福井さん、青木さん、アキさんは掃除と梱包作業」

「はい!」

「北山さん、中島さん、シュウさんは、私と大きめの家具を移動させます」

「はい!」

住人皆、軍隊よろしく、大家さんの指示に従う。
青木君の方に行きたそうにしている中島君だが、シュウ君と大家さんに睨まれて、しぶしぶ机を運ぶ。
北山君が顔を歪めるほどのタンスを、一緒に持つ大家さんは涼しい顔をしていた。

結果、新しい契約書へのサインから、ものの1時間足らず。

「皆さん、お疲れ様でした」

大家さんが部屋の移動完了を告げた。

こき使われた我らはその場でくずれおちる。
男性陣と違って、掃除していただけなのに、私は想像以上にひ弱だったらしい。

きっと明日は筋肉痛。
先ほどまでの頑張りは、大家さんの恐怖政治が為せる技だった。

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