家出少女と風花寮
園田秋という人物
放課後。
いつも一緒に帰る青木君は、新刊発売日だから、本屋に寄ってから帰るらしい。
それの同行を丁重にお断りし、特に寄るところのない私は、一人で寮の戸を開ける。
「ただいま」
「福井さんちょっと」
「はい?」
困り顔の大家さんに呼び止められた。
私、なにかやらかしたでしょうか。
手招きされるままに、居間のいつものところに正座する。
ちゃぶ台に冷たい麦茶が2つ置かれる。
「ありがとうございます」
「いいえ」
大家さんは私の隣に座ると同時に切り出した。
「今日は大変だったそうですね」
「ええ、まぁ……」
シュウ君に男子トイレに連れ込まれたことですね。
もう大家さんに話がいってるんですか。
「でも、大丈夫ですよ、青木君と中島君に助けていただきましたから」
「……流血沙汰まであったのに、福井さんに八つ当たりする可能性を見ることができませんでした。…………私の落ち度です。申し訳ありません」
綺麗な顔がほんとうに申し訳なさそうにゆがむから、胸が痛む。
「謝らないでください、悪いのはシュウ君であって、大家さんではないです」
流血は腐男子の幸せな鼻血で、シュウ君はちっとも悪くないですし。
「今日のトイレも、シュウ君が悪いというより、私が悪かったというか……好奇心は猫を殺すというか…………」
私はいったい何が言いたいのでしょう。
「ですが、私が双子の部屋を分けたことが原因のひとつでもあります。シュウさんの退寮手続きを致しましょう。もし、福井さんがここにいたくないのであれば、ほかの寮に移るお手伝いもさせてください。知り合いが寮を持っているので、私からかけ合います」
「……どうして、そんな話になるんですか」
「女子を男子トイレに連れ込む人と同じ家にいるのは怖いでしょう? ここには、個室に鍵をつけていませんから」
大家さんの気遣いは嬉しく思う。
けど。
「大丈夫です、今回は何も無かったですから」
それに、ひと月2万の家賃が惜しい。
「次も、大丈夫という保証はできかねます」
「……大家さんが出て行けというなら、従います。……けど、私はここが好きです。一緒に住んでいるみなさんが好きです。なので、ここにいさせてくれませんか?」
胸の前で緊張に震える手を組み、大家さんの目を見て懇願する。
「シュウ君のことも、誤解があったんです。きっと、話せばわかってくれます」
私が野次馬さえしなければ、防げたこと。
シュウ君には謝り倒して、二度としないと誓います。
だから追い出さないでください!
しばしの睨めっこの後、彼の目が伏せられた。
「わかりました。今晩、話し合いましょう」
「ありがとうございます」
頭を下げて、息をつく。
手の震えはおさまらない。
「帰って早々引き止めてしまって、お疲れでしょう。残りのお話は、お夕飯の後に。それまでゆっくりしててください」
「はい。では、失礼します」
私は、鞄を抱えて自室へ小走りした。
扉をしめて、布団に飛び込む。
「はぁぁあぁぁぁ……。どうしようどうしようどうしようどうしょう……」
決戦は夕飯の後。
いかに双子弟に私が無害と主張するか……。
視線を向けた先の本棚。
『ゆき。』のケータイ小説たち。
あの中のどれかに、上手く言い訳するシーンはあっただろうか。
否。
謝り倒すのは、悪役で、断罪の時だ。
上手い言い訳などあるわけもない。
読者は、弱い主人公なんて見たくない。
大人気ケータイ小説家『ゆき。』の小説の主人公たちは、みんな戦っていた。
最初の友達づくりからつまずいた私に、どこまで出来るでしょうか。
悪役のごと、断罪されるか。
奇跡が起きて、ヒロインのように都合よく終わらせられるか。
何の解決策も浮かばないまま、時間だけが過ぎた。
いつも一緒に帰る青木君は、新刊発売日だから、本屋に寄ってから帰るらしい。
それの同行を丁重にお断りし、特に寄るところのない私は、一人で寮の戸を開ける。
「ただいま」
「福井さんちょっと」
「はい?」
困り顔の大家さんに呼び止められた。
私、なにかやらかしたでしょうか。
手招きされるままに、居間のいつものところに正座する。
ちゃぶ台に冷たい麦茶が2つ置かれる。
「ありがとうございます」
「いいえ」
大家さんは私の隣に座ると同時に切り出した。
「今日は大変だったそうですね」
「ええ、まぁ……」
シュウ君に男子トイレに連れ込まれたことですね。
もう大家さんに話がいってるんですか。
「でも、大丈夫ですよ、青木君と中島君に助けていただきましたから」
「……流血沙汰まであったのに、福井さんに八つ当たりする可能性を見ることができませんでした。…………私の落ち度です。申し訳ありません」
綺麗な顔がほんとうに申し訳なさそうにゆがむから、胸が痛む。
「謝らないでください、悪いのはシュウ君であって、大家さんではないです」
流血は腐男子の幸せな鼻血で、シュウ君はちっとも悪くないですし。
「今日のトイレも、シュウ君が悪いというより、私が悪かったというか……好奇心は猫を殺すというか…………」
私はいったい何が言いたいのでしょう。
「ですが、私が双子の部屋を分けたことが原因のひとつでもあります。シュウさんの退寮手続きを致しましょう。もし、福井さんがここにいたくないのであれば、ほかの寮に移るお手伝いもさせてください。知り合いが寮を持っているので、私からかけ合います」
「……どうして、そんな話になるんですか」
「女子を男子トイレに連れ込む人と同じ家にいるのは怖いでしょう? ここには、個室に鍵をつけていませんから」
大家さんの気遣いは嬉しく思う。
けど。
「大丈夫です、今回は何も無かったですから」
それに、ひと月2万の家賃が惜しい。
「次も、大丈夫という保証はできかねます」
「……大家さんが出て行けというなら、従います。……けど、私はここが好きです。一緒に住んでいるみなさんが好きです。なので、ここにいさせてくれませんか?」
胸の前で緊張に震える手を組み、大家さんの目を見て懇願する。
「シュウ君のことも、誤解があったんです。きっと、話せばわかってくれます」
私が野次馬さえしなければ、防げたこと。
シュウ君には謝り倒して、二度としないと誓います。
だから追い出さないでください!
しばしの睨めっこの後、彼の目が伏せられた。
「わかりました。今晩、話し合いましょう」
「ありがとうございます」
頭を下げて、息をつく。
手の震えはおさまらない。
「帰って早々引き止めてしまって、お疲れでしょう。残りのお話は、お夕飯の後に。それまでゆっくりしててください」
「はい。では、失礼します」
私は、鞄を抱えて自室へ小走りした。
扉をしめて、布団に飛び込む。
「はぁぁあぁぁぁ……。どうしようどうしようどうしようどうしょう……」
決戦は夕飯の後。
いかに双子弟に私が無害と主張するか……。
視線を向けた先の本棚。
『ゆき。』のケータイ小説たち。
あの中のどれかに、上手く言い訳するシーンはあっただろうか。
否。
謝り倒すのは、悪役で、断罪の時だ。
上手い言い訳などあるわけもない。
読者は、弱い主人公なんて見たくない。
大人気ケータイ小説家『ゆき。』の小説の主人公たちは、みんな戦っていた。
最初の友達づくりからつまずいた私に、どこまで出来るでしょうか。
悪役のごと、断罪されるか。
奇跡が起きて、ヒロインのように都合よく終わらせられるか。
何の解決策も浮かばないまま、時間だけが過ぎた。