家出少女と風花寮
「園田アキ、1年です」
「で、ボクが園田シュウ。1年で、兄さんとは双子だよ」
園田兄弟は双子というだけあって、瓜二つ。
外側にはねた髪とくりくりの大きな目。
違うのは、頭一つ分以上差のついた身長だけ。
ちなみに、兄のアキ君が小さい。
「というわけで、このメンバーでやっていくことになりますから、皆さんよろしくお願いします」
口々に、よろしく、やら、お願いします、との声が飛ぶ中。
私は会釈して、よろしくお願いします、と口の形を作った。
「そんじゃあ、顔合わせも終わったし、オレ、出かけてくるねー」
終わるや否や、中島君が飛び出していく。
大家さんを見ると、咎めもせず、微笑むだけだった。
「それでは私は、夕飯の準備をしてきますね。北山さん、福井さんに案内を頼みます」
「ああ」
大家さんが立ち上がるのを合図に、入居者たちが散っていく。
それを座ったまま見送っていると。
「ゆき」
「はいっ」
北山君に呼ばれた。
「ついてこい」
「はい」
彼は私のキャリーバッグを持っていく。
また持たせることになって、気持ちが落ち着かない。
「あの、荷物持ちます」
「ん? 部屋まで運ぶだけで、別に取ったりしねぇよ」
そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど。
力尽くで返してもらうなんて行動を起こす気概もなく、先を行く彼を追う。
階段を上がって一番奥の扉を開かれた。
そこは、6畳くらいの広さで、畳敷き。
小さな机と箪笥があり、ふすまの向こうはささやかな押入れが存在する。
「ここがゆきの部屋。宅配されてきた荷物も全部入れてある」
北山君は中に入り、扉近くに積んであった段ボールの横にキャリーバッグを置いてくれた。
「ありがとうございます」
「おう」
すんなりとでた感謝に、彼は嬉しそうに笑ってくれた。
「荷ほどきも後で手伝ってやるよ」
「いや、あの、そこまでやっていただくわけには……」
「ん? 遠慮しなくていいんだぞ」
「いや、その………」
「……あぁ、そうか、男には見られたくないものもあるよな」
「……………」
とくに思い当たらないけど、目を逸らし、無言でいると、それを肯定と受け取ってくれたらしい。
「俺に手伝えることがあったら、いつでも呼んでくれ。次に行くか」
「はいっ」
手荷物を部屋に置いて、北山君を追う。
1階に降りて、奥のトイレ。
隣の脱衣所と風呂。
「空いてるときに入ったらいいが、カギを閉め忘れるなよ。男所帯だからな」
「はい」
それから、規則正しい軽快な音の聞こえる方へ。
「大家さん、失礼します」
「どうぞ」
大家さんが夕飯の支度をしているところにお邪魔する。
「ここが炊事場。冷蔵庫も共同で使ってて……」
北山君が冷蔵庫を開けると、ジュースやら紙袋やらが入っている。
そのうちの紙パックジュースを手に、見せてくれる。
「個人のものには名前を書いておく」
それの裏に北丸印がついていた。
「これ、俺のってマーク」
私は頷いた。
「失礼しましたー」
「失礼、しました」
「はい」
用が済んだので炊事場を後にする。
「ご飯はさっきの居間で食べる。……と、ここまでで質問はないか?」
「今のところは……」
「そうか。思いついたらいつでも声かけてくれ」
「ありがとう」
「どういたしまして。んじゃ、ご飯まで部屋の片づけでもしたらいい。困ったらいつでも呼べよ。俺の部屋は1階の角部屋だから」
「はい。………ありがとうございます」
北山君はひらりと手を振り、自室といったそこへ入っていった。